一章

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   二つ目は彼女の容姿。    言わなくても大体予想がつくだろうが、彼女は美人だった。ただし、その程度に問題があった。  整った顔立ちに、陶器のように滑らかな白い肌。通った鼻筋。そして鋭くも大きい深紅の双眸。ただの美人ではない、百人が百人とも振り返ってしまうような美人中の美人。まさしく美女だった。周りの人間が向けていた視線も、奇異よりもどちらかといえば好意の割合が強い。数字で表すなら六対四というところか。  最後の三つ目。    これは残りの四割が原因なのだが、少し、いや、かなり話が長くなる。   Ж  グーテ・ライゼ号は旅客船としては大きい部類に入る。百五十人分の個室と四人用の雑居部屋を五十室。さらに船内には球技を始めとした娯楽施設、船内レストランなどの飲食店、大浴場やプールが設けており、甲板には小数ながら幾つか売店までもが置いてある。当然乗務員の教育もしっかりしており、そのサービスは上々。同業者ですら規範としている程である。  事の発端は昨日の昼ごろ、件の紅い女性が船内レストランで昼食を摂っている時だった。  その日、彼女はそこでも周囲から多くの視線を浴びていた。別に高級なものを口にしている訳ではない。特に奇異な部分もない。一点だけ、皿の枚数が成人女性にしては少し多いのを除けば、ごく普通の食事風景である。
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