一章

5/33
前へ
/279ページ
次へ
   そこからして、理由はやはり彼女が持つ容姿のせいだろう。    それでも彼女が手を止める事がないのは、これまでに何度も似たような経験をして来たからだった。お陰でいい加減自分が美人であると自覚が出て来たが、それでも過少評価していた。実際には上が付くほどの美人なのだが。    と、そこへ一人の青年が彼女の座っているテーブルに近づいて来た。    歳の頃は二十代半ば。整った顔立ちに、短い金髪と碧い瞳を持っている。着ている服はグレーのワイシャツにジーパンとシンプルなものだったが、首には金の飾りを、腰には凝った装飾の剣を差していた。推察するに貴族である。   「ここいいかな?」    こんな声の掛けられ方にも慣れており、女性は青年をちらりとも見ず「どうぞ」、と短く答えた。 「それじゃ、失礼」    そう言って女性の対面に座ると、コーヒーを一杯注目した。対して女性の方は皿を空にし、紅茶を口にしている。あからさまに興味無し、である。 「ねえ、キミってさ――」 「人と会話をする時は、まず名乗ってからが、礼儀じゃない?」  青年の第一声をそう一蹴して彼女は再び紅茶を口に運んだ。そしてその一連の動作の最中でも青年の顔を見ようとせず、眼は常に伏せている。
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加