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そこからして、理由はやはり彼女が持つ容姿のせいだろう。
それでも彼女が手を止める事がないのは、これまでに何度も似たような経験をして来たからだった。お陰でいい加減自分が美人であると自覚が出て来たが、それでも過少評価していた。実際には上が付くほどの美人なのだが。
と、そこへ一人の青年が彼女の座っているテーブルに近づいて来た。
歳の頃は二十代半ば。整った顔立ちに、短い金髪と碧い瞳を持っている。着ている服はグレーのワイシャツにジーパンとシンプルなものだったが、首には金の飾りを、腰には凝った装飾の剣を差していた。推察するに貴族である。
「ここいいかな?」
こんな声の掛けられ方にも慣れており、女性は青年をちらりとも見ず「どうぞ」、と短く答えた。
「それじゃ、失礼」
そう言って女性の対面に座ると、コーヒーを一杯注目した。対して女性の方は皿を空にし、紅茶を口にしている。あからさまに興味無し、である。
「ねえ、キミってさ――」
「人と会話をする時は、まず名乗ってからが、礼儀じゃない?」
青年の第一声をそう一蹴して彼女は再び紅茶を口に運んだ。そしてその一連の動作の最中でも青年の顔を見ようとせず、眼は常に伏せている。
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