1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「あ~あ、みんな死んじゃったよ」
男がつぶやく。
「まさか、最後が俺だなんて……」
後ろにそびえる大木に背中をあずけながら、傘のように広がる緑葉を見上げた。
「はは、これからどうしようか?」
笑いながら木に問うが、かえってくるのは葉の擦れる音だけだった。
本当に、これからどうしよう。
周り一面には高々とした木が生い茂っている。
既に見慣れた光景だったが、何故か新鮮なものを感じた。
「これが心情の変化ってやつなのかね?」
男は木に問いかけた。しかし、かえってくるのはゴツゴツとした幹の感触だけだった。
そうやって木に触れていると、何故だか突然に登りたくなった。
何百年も生き続けたからこその視野を、俺も味わってみたくなったのだ。
早速、太い幹に足をかける。
ゴツゴツした樹皮はここに足をかけろと言ってるかのように俺を上まで導いた。
三分の一ほど登ると、陽を浴びて、立派に成長した太い枝に手をかけ足をかけた。
「ふぅ、ひとまず休憩するか」
ポケットにいれておいた色とりどりの小さな木の実を取り出して頬張った。
酸味や甘味が口いっぱいに広がる。
うん、美味い。
しかし、これを味わう者はもう誰もいない。
なんというか、優越感と寂寥感の狭間のような……そんな複雑な感覚を味わった。
「さて、そろそろ行くか」木の実の種を、ピュッと遠くへ飛ばした。
上にいくにつれて、枝の数も増えて、随分と登りやすかった。
枝の根元を手足で掴みひょいひょいと登る。
上へ……もっと上へ!!
俺は焦っていた。何故かは分からない。なんとなく、そう、なんとなくだ。言うなれば虫の報せ。
「はぁ、はぁ……んしょ。はぁ、はぁ」
額には汗が流れる。背中にシャツがピッタリとくっつくのが気持ち悪い。しかし、それを剥す度に風がぬけて涼しく心地良かったりもする。
「もう少し……かな」
幾重にも折り重なる葉から光が漏れだしていた。
そして。ついに。
「……ついた!」
最初のコメントを投稿しよう!