~ 壱 ~

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 彼がそれなりに博学であったためか、あの方は彼とよく話をし、頼り、そして可愛がっていたように思えます。  ですから、彼があの家を出て来た理由が、私には解らなかったのです。 「少し、いえ、何も」  彼は口ごもり、その日はそれきり話そうとはしませんでした。  私も、特にこの日に無理をしてまで聞き出そうとは思いませんでした。  それは、気にはなりましたよ、勿論。  けれども、やはり人は入り込まれたくない領域というものを持っているものですから。  そういうわけで、私と彼の同居と相成ったので御座います。
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