15人が本棚に入れています
本棚に追加
ああ、今日はクリスマス。
私はポツリと呟いた。
外は真っ白な雪で覆われて、何もかもが白一色になった。
私は、そんな白色の景色に目を細め、培養液の中の彼女へ愛の言葉を投げかける。
もっとも、彼女には聞こえていないと思うけど。
10年前のちょうど今日、彼女は死んだ。
……いや、殺された。
彼女の体はナイフでズタズタにされていた。
特に彼女の腹は、内臓が飛び出るくらいにズタズタだった。
しかし、唯一彼女の美しい顔だけは傷一つなかった。
私は、そんな彼女の姿を見て狂ったように泣いた。
……いや、あの時狂ってしまったのかも知れない。
この10年間、私は彼女のためだけに生き続けてきたのだから。
私は、彼女の体から首を切り離し、特殊な培養液の中へと入れた。
そして、彼女を何とか生き返らせたくて、生命維持のチューブを何本も切り口に付けた。
今も彼女は、培養液の中で眠り続けている。
時折、彼女が息を吐く。しかし、彼女は目覚めない。
彼女の髪が海藻か何かのようにユラユラと揺れる。
彼女の青白い美しい顔と、金色の髪と、色とりどりのチューブが、何かの芸術のようにさえ思えてくる。
私がどんなに愛の言葉を囁いたって、彼女の目は閉じたまま。
今日は、クリスマスなんだ。
私は、もう一度呟いた。今日は神の子、イエス・キリストの誕生日。
約2100年前に、奇跡が起こった日。
そんな日に彼女が目を覚ましたら、どんなに素晴らしいだろう!!
私は、力なくガラスケースを叩くと、自傷気味に笑った。
無理なのは、わかっている。
今の科学では、これが精一杯。
だけど……出来る事ならもう一度、彼女の瞳が見たい。彼女の笑顔が……みたい。
最初のコメントを投稿しよう!