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……ゴポッ……
突然、培養液の中で振動が起こった。
私はハッと顔を上げる。培養液の中の彼女の口が僅かに動く。
私は、息をするのも忘れて彼女に見入った。
彼女の口から空気が漏れて、それはあぶくとなって上へと上る。
彼女の瞼が痙攣し、徐々に開いていく。
そして、ついに彼女の瞳は開いて、私の顔をしっかりと見つめた。
……奇跡だ……
私は、思わず呟いた。
目からは涙が溢れ出る。
奇跡が起きたんだ……!
私は涙を拭いながら彼女の顔をもう一度見る。
彼女は、まだ意識がはっきりとしないようで、ぼんやりとした瞳を私に向けた。
私は、それだけでも嬉しくて、にっこりと彼女に笑いかけた。
その瞬間、彼女は驚愕に目を見開いた。
顔は、なぜか恐怖で引きつっている。
口は何かを伝えようと動くが、声はあぶくとなって消えていく。
私は彼女の言葉を分かりたくて必死に彼女の口の動きを目で追った。
………け…の……
彼女の口は、この言葉を繰り返している。
私は彼女の言葉を理解したくて、さらにガラスケースに近づいた。
彼女はまた繰り返す。
…………もの……
……なぜだか彼女を見ていると、私の頭の奥で何かが蠢くような感覚がした。
彼女は、まだ、繰り返す。
……ば……も…の………ば…け…も…の…
……彼女の口は、確かにそう動いた。
……化け物!! と。
私はその場にズルズルと座り込んだ。
……せっかく彼女が目覚めたのに、あんな顔をして、化け物だなんて言われるなんて……。
あんなにも、彼女との再会を夢見ていたのに……彼女は、ずっと繰り返す。
化け物! 化け物! 化け物! 化け物!……………
私は黙ってケーブルの電源を切った。
私はただ、彼女の笑顔がもう一度見たかっただけなのに。
こんな事、望んでいない。
こんな結末は、望んではいなかったんだ……!
電源を切られた彼女は苦しそうに顔を歪めた。
私はその顔さえも、美しいと思った。
……いや、その顔ほど美しく、儚いものはないだろう……
やがて、彼女のすべての動きはゆっくりと停止した。
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