15人が本棚に入れています
本棚に追加
いつものように、彼女に会いに行くと、そこには彼女はいなかった。
私は不審に思い、花屋の奥へと向かった。
花屋に入ったのは初めてで、見たことのない花が沢山あった。
私はむせかえるような香りの中を必死に駆け抜けた。
店の奥には、無残な彼女の姿があった。
体中がズタズタだった。特に腹が一番酷かった。
私はその場に崩れ落ちた。
彼女の体は恐ろしい程冷たく、固くなっていた。
ふと、後ろを向くと、花屋の店主が立っていた。
私はすぐに彼女の事を伝えようとした……が、やめた。
店主は、体中真っ赤で手には血で汚れたナイフを握りしめていた。
私は、すぐさま店主を殺した。
何度も何度も体を傷つけた。
店主はすぐに動かなくなった。
その瞬間、私のどこかで何かが壊れたような音が聞こえた気がした。
私はしばらく座りこんだ。
体中の節々が痛み、私は床を転げ回った。
しばらくすると、体の痛みは嘘のように引き、私は二本の足でしっかりと床を踏みしめていた。
いつもより、床が遠い。
いつもより、体が重い。
私は床を踏みしめながらそう思った。
私は床に横たわる彼女を静かに見つめた。
私は初めて彼女を腕に抱いた。
彼女は意外に重く、そして先ほどよりも冷たくなっていた。
私は、声を上げて泣いた。
……初めて流した涙は、彼女にポタポタと、雨のように降り注いだ。
そして私は、彼女の首を切り取り、家へと持ち帰った……。
……私は彼女の名前を知らなかったのだ。
……教えて、くれなかったのだろう。
白い白い雪は、音もなく空から降り注ぐ。
私と彼女の体は白に包まれて、その白は、なんだか結婚式を挙げる夫婦の衣装のような、厳かな雰囲気を醸し出していた。
ふと、私は自分の体に奇妙な羽が付いているのに気がついた。
……黄色い、羽。
それは、体中にこびり付いていた。
いや、それは、私の体から直接生えていた…………。
………そして、私はやっと彼女の言葉を理解する事ができたのだった………
.
最初のコメントを投稿しよう!