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二人でよく歩いていた道で、背中越しに聞こえていた君の足音は今はなく、あるのは面影ばかり。
よく遊んでいた公園のシーソーに乗っても君がいないから僕の方だけ下がり、君が乗っていた方の板が上がって奥にある家の窓明かりの一部を消した。
もうあの時のように向こうの景色を見ることはできないのだろう。
最後に会った時の君は、なぜか初めて会った時よりも安らかで、そっと僕の手に君の手を合わせてささやいたね。
『最後まで残ったほうが、面影を大切にしよう』って。
その時は言葉の意味がわからなかったけど、目をつむればすぐに思い出すんだ。
君はすでに自分の運命を悟っていたんだね。
僕は地面を蹴りシーソーを上げた。
あの時と同じく沢山の部屋が見えたのに、君との思い出だけは遠く佇んでいた。
硬く結んでいたはずの思い出や記憶が、靴紐のように駆け足で解けていくようだった。
しだいに消えていく輝いた記憶が、休むことなく増えていく。
こうして全てを忘れていってしまうのだろうかと思うと、とても悲しくなった。
帰り道、二人でよく歩いていた川の対岸で、こちらに向かって君が手を振っているのが見えた気がした。
あの時と同じ笑顔で…。
(終)
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