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過去のある日。
やむ事を知らないかのような水滴が
一匹の猫の肌を濡らしていた。
「……――」
毛が濡れたせいか
体が重い。
白い猫はとぼとぼ歩いていた。
前方に重心をかけ、足を引きずるようにする。
……体…重い。
猫は微かに表情をしかめた。
体が重いのは
雨のせいだけじゃ
…ない…――
あたしは6歳という身で
人間界に訪れた。
念願の世界、だった。
だけど…――
『…ライなんか、もう帰ってこなくていい!!』
猫は薄く開いていた口を引き締めた。
苦しそうに瞼を閉じ、足を止める。
……真白…――
小猫は俯き、水に濡れたコンクリートの道路で、瞳から涙を流した。
溢れたものは
雨と混ざってわからなくなった。
…視界がぼやけて、目の前が見えない。
「……ッ…――」
来なければよかった、と
来たばかりなのに
後悔した。
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