開始

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 ある男の所に見知らぬ紳士がやって来た。  右手には5cmほどの箱を、左手にはジュラルミンケースを持っていた。  紳士は目深にシルクハットを被っていたので、男には顔がよく見えなかった。  その箱は、押しボタンがついている以外に特に変わったところは無かった。  紳士は穏やかな口調で言った。 「あなたがこのボタンを押すと、どこか遠い場所であなたの知らない人が死にます。 その人はある罪を犯しました。命でしか償えないような罪を。 しかし、とある理由で私にはこのボタンが押せません」  男は疑問に思いながら尋ねた。 「……で、俺にボタンを押してほしいって言うのか? 悪いけど、そんな冗談につきあってる暇は……」    ドサッ   「ボタンを押して頂けましたら100万ドルを現金で差し上げましょう」  そう言いながら、紳士は紙幣のぎっしり詰まったジュラルミンケースを見せた。  男が戸惑うと、紳士はケースの蓋を閉じて言った。 「3日後に箱を取りに伺いますので、それまでに押されるか押されないかを決めてください」  そう言い残して紳士は去って行った。
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