春とシーツ

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ノジオは私の会社にやってきた清掃員だった。じめじめした6月に、オフィスの隣の給湯室でコーヒーを淹れている時に、ノジオが私に話しかけてきたのがきっかけで、いわゆるお付き合いというやつをすることになったのだった。ノジオは給湯室の私を見つけるなり、 「あの、この会社、汚いです」 といったのだった。私は少し「むっ」として、 「すみません」 と言った。ノジオはさらに、 「髪の毛、埃、紙くず、塵、ゴム、食べかす、ヘアピン、煙草の吸殻、お弁当のアルミホイル、ガム、空き缶、カフスボタン、インクの切れたボールペン、なんだか分からない薬、果物の皮、布の切れ端、電池、ここにはごみというごみが集まってるみたいです」 ノジオはゴミ袋を目の前に翳しながらそういった。でも、ノジオのことばにいやみったらしさは少しも無く、むしろ新たな発見をした小学生のような無邪気さがあった。 「はあ」 私は清掃担当の新人は誰だったかしらと思いながら俯いてコーヒーをかき回した。 「それからねえ、こんなのもあるんですよ」
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