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何杯飲んだだろう…
お銚子を空にした愁は全く酔ってない素振りを見せた。
本当は酔いがかなり回っているのだが、ただの酔っ払いには見られたくないというプライドが彼を支えた。
さすがに酒は飽きた。
「悪いな、えっと…」
「美緒です。
閉店までまだまだあるのでゆっくりしていって下さい。」
美緒は笑顔で愁に話しかけた。
まだあどけなさが残る可愛らしい笑顔だった。
愁はキセルをくゆらせながら、吹き抜けから空を覗いた。
「…こうして20歳まで生きてこられたのは奇跡だな。
普通の人間ならすぐに死んじまうような生き地獄を見てきたからな…。」
愁は皿に乗っているおつまみの残りをつまんだ。
「…昔を振り返るのは嫌なんだけどな。」
半月を見ながら愁は少年時代―別名生き地獄を回想していた。
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