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「寄るな、みなしご!」
無邪気だが悪意のある子供たちの声が飛ぶ。
その声の対象となっているのは1人の少年だった。
少年は罵声をものともしないような真顔を保っていた。
普通の家族ならいるはずの両親、それが自分にはいない。
そんなことはわかっている、わかってはいるのだ。
少年はそう自分に言い聞かせていた。
少年―愁は産まれてから親がいない。
母は愁を産んですぐに死に、父は出稼ぎに行って帰ってこない。
関ヶ原の戦いの真っ只中なので恐らくすぐに帰っては来れないだろう。
もしくは…もう帰っては…。
今は母方の親戚の家に住んでいる。
両親が親戚の反対を押し切って婚約したため、その子供である愁は親戚たちに受け入れてもらえていなかった。
おまけに誰が仕入れたのか知らないが、両親がいないという愁の事情を知った村の子供たちは愁を変な奴と見なし、こうして蔑んでいる。
つまり、ここに彼の居場所はなかったのだ。
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