プロローグ―悪意の序曲―

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しかし標的の姿は影も形も見えない。 奴がこの家に入ったのは確かに確認した。 それからは一歩も外に出ていない筈だ。 サブリーダーを兼ねているヘキサアルファが、懐から無線機を取り出した。 「ヘキサアルファからヘキサリーダーへ。標的の姿が見当たらない。手引きした協力者の死亡を確認。屋内の捜索を実行中。次の指示を乞う」 1分も経たぬ内に無線機からノイズ混じりの音声が飛び出し、アルファはそれに耳を傾けた。 「ヘキサリーダーからアルファへ。居ない筈は無い。徹底的に捜索しろ。必ず手掛かりがある筈だ。こちらも合流する」 屋外ーーうだる様な南国の夜の闇に目を凝らし、ヘキサリーダーは再び無線機に口を当てた。 「ヘキサリーダーからソルシエラへ。屋内へと移動する。引き続き周囲の警戒及び監視を行え。異常を確認したならば速やかに報告されたし」 ヘキサリーダーから数百メートル離れた高台にいる男が、無線機からの声に僅かに頷く。その傍らにはうつ伏せの体勢で、息を殺し銃を構える男が居た。黒光りする長大な銃身と、望遠鏡を彷彿とさせる大型のスコープが、伏せた男が持つ銃が長距離狙撃に特化した物である事を物語っていた。 ソルシエラと呼ばれた男は傍らの男に目配せをすると、無線機に向かってたどたどしい英語で返答を返し、双眼鏡を覗き込んだ。 ヘキサリーダーはソルシエラからの了解の報告を受けると小走りに民家へと近付いた。 室内ではチームのほぼ全員が集まっており、それぞれ無言で遺留品から手掛かりを洗い出している。 ヘキサリーダーの顔を見るなりヘキサアルファが口を開く。 「駄目です。ロクな物がありません。床板でもひっぺがしましょうか?」 ヘキサリーダーは眉間に皺を寄せると、じろりと横目でアルファを睨んだ。 「人が忽然と消えるなんて事があるわけが無い。どこかに必ず隠し通路があるはずだ。遺留品の方は何があった?」 「特にこれといった物は……」 その言葉を遮って、洗面所から姿を表した浅黒い顔の男が声を発した。 「隊長。こんな物しかありませんでした」 そう言った男の手にはビニールに入れられた使い捨てのひげ剃りが握られていた。
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