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キレた一人が殴り掛かってくる。
それを静止画でも見てるかの様に避けると、右手に本を持ち替えて掌底を鳩尾に叩き込んだ。
後ろから自分を捕まえようとした腕をかい潜り、耀魔の回し蹴りがそいつの足元を掬った。
「たいしたことないな」
「ンだとぉ!」
連携プレイを軽々と避わし、口に手を当てた。
―――ピュルリっ
歯切れのいい指笛の直後、耀魔の周りに烏が集まって来た。
「面倒臭い。後は頼む、病院送りでも構わない」
一際巨大な大烏にそう告げると、耀魔は踵を返して校舎へと向かった。
「てめ、待ちやがれってうぉ!?」
烏の群はチンピラをド突きまくっている。
何事も無かったかの様に歩く耀魔に、足に掴んでいた携帯を差し出しながら先程の大烏が言う。
「耀魔様、常に持ち歩く様にと桜に言われていた筈でございます」
「あぁ、すまないな翡翠(ヒスイ)」
名前通り翠の瞳をした大烏は、携帯を耀魔の手に滑り込ませると飛んで行った。
耀魔と翡翠のやり取りは、校庭に集まった大量の烏のお陰で誰にも気付かれる事は無かった。
烏に襲われたチンピラ達は、憐れ耀魔の宣告通り病院送りとなった。
その様を見ていた他の生徒達は札付きのチンピラに対する天罰だと思っているのだから、人間の精神は図太いと、それを上空から眺めていた翡翠は思った。
‡‡‡‡‡‡
「朝から悲惨だったねぇ神流」
神流の親友、芒山志輝(ススキヤマ・シキ)は神流に同情から肩を組んだ。
「ま、アイツら烏に襲われて重傷だって聞いたし、これに懲りてチンピラなんて辞めるでしょ」
「烏?」
「なんか、あんたの言ってた見知らぬ生徒に襲い掛かった途端に二人が病院送りになったんだって。その直後に烏がやって来て、チンピラに天誅を食らわしたんだってぇ~」
「うわ…………それって黒髪の人だよね?」
「らしいよ。茶髪のクォーターは知らないけど」
「あの人、校舎に入った途端にいなくなっちゃって。お礼言おうと思ってたのに………」
とりあえず朝の出来事を報告する為に職員室に向かう二人。
事務室の前に、二人の男子生徒が居るのに気付いた。
もうすぐ朝のホームルームだというのに、生徒が此処にいるのはおかしかった。
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