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その決意と共に。
衝撃が走る。
世界がスローモーションで流れた。
男の拳が自分の身体にめり込んでいる。
ナイフ持つのとは逆の手。
ナイフに気を取られ、死角から来る拳打に気付けなかった。
息が全て吐き出される。
苦しさも無い。
ただ、感覚が全て重くなる。
深い沼にずぶずぶとはまっていくような心地を覚える。
背中がコンクリートに触れた。
眠たい。
自分の意識が遠く感じる。
意識を失えば相手にトドメを刺させるにせよ、刺されないにせよ、違う相手に発見され、殺される。
すなわち――それは死だった。
だが。
深みにはまっていく意識をかき集め、全身の力を振り絞る。
「が、ぁぁああああっ……!!」
弾かれた様に、地に手を着け、立ち上がる。
相手と再び対峙する。
男はその場から動いていなかった。
胸には私の手にあったナイフが突き立てられ、そこからごぽごぽと血が溢れている。
刃は、まっすぐ、深く心臓に刺さっていた。
男は跪き、口からも血を吐き出した。
――交錯の瞬間。私は男の胸へとナイフを突き立てていた。
私は鈍い足で男の元へ向かう。
1mの距離で相対する。
……怨嗟のこもった視線を向けられる。
それに、蔑みの眼で返す。
突き立ったナイフの柄に手をかけ、一気に引き抜いた。
留める物がなくなり、血液が一気に噴き出る。
男は呻き、うつぶせに倒れた。
出来上がった屍を見下ろし、しばらく見つめた。
……憐れみも、感慨も沸かなかった。
ただ感じたのは嘲りのみ。
そして、先へと進み出した。
肋骨にヒビが入っている。
その痛みに耐え、よろよろと歩を進めた。
この地下に居る全ての人間を殺しつくすまで、その歩みは止められなかった。
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