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二つの扉は、互いに身を寄せ合うようにして存在した。重く鈍い光沢を放つ鉄(くろがね)の扉と、飴色に輝く木造の扉。それぞれには、翼を広げた天使の姿が彫られている。しかし、その質感が与える印象により、それは別の物を表しているように思えた。冷たさと温もり。生と死。堕天と昇天。相反するようであり決して切り離せない物。扉は、その象徴であった。
彼はまず、木造の扉のドアノブに手を掛ける。それを回しながら、前に押したり、引いてみたりを繰り返した。しかし、扉は一向に動かない。彼は諦め、もう一つの鉄の扉のドアノブを掴んだ。
掌に広がる、冷たい金属の感触。小さく身震いすると、彼はドアノブを回し、扉を押す。開かない。今度は、扉を手前に引いてみる。かちゃり、という音。微かな手応えと共に、扉はゆっくりと開いた。
どさり。
途端、体に多い被さってきた『何か』に、彼は小さく悲鳴を上げた。それを払いのけ、後退る。支えを失い床に転がったそれの姿を改めて視界に捉えた瞬間、彼は再び悲鳴を洩らした。
鈍色の空間に突如として現れた異質。それは、人形のように血の気を失った人間の躯だった。
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