0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
風が冷たくなった。
街路樹が赤や黄に姿を変えている。
季節はもう冬になるのだろう。
―クシャクシャ
落ち葉を踏み締める。
ふと前方から懐かしいメロディーと共に焼きイモ屋の車がゆっくりと走ってきた。
イモを焼く匂いが鼻先を掠める。
―まだあったんだな。
幼い頃焼きイモなんて滅多に食べられなかったのを思い出す。
突如沸く、焼きイモの映像。
―少し焦げた皮...堪らなく力を入れて半分に折る。
あらわになる山吹色の中身。
焼きイモ独特の甘く香ばしい香りがふわり、と漂ってくるようだ。唾が口内に洪水の様に溢れ出す。
―ああ!食べたい!!
脳内は三大欲求の1つである食欲に完全敗北した。
白旗を振る理性。
もう焼きイモ屋しか視界になかった。
スタンディングスタート
まだ車は追い掛けられる!
欲望の赴くままに走りだす。
もう脳内では甘いイモを頬張る自分が居た。
唇という名の防波堤が崩壊した。
「すいませ~ん!!!」
いい大人が何をしているのだろう。
理性が反撃を開始する。
が
もう遅い。
「大、2本...大きいの2本下さい!!!」
「はいよ~、ありがとね~。」
自分はまだまだ子供だな、と思う。
欲しい物を手に入れた今、羞恥心が全身を駆け巡る。またしても耳に懐かしい音色。
「と~ふ~、豆腐~」
―またかよ。
最初のコメントを投稿しよう!