イモと俺

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
風が冷たくなった。 街路樹が赤や黄に姿を変えている。 季節はもう冬になるのだろう。 ―クシャクシャ 落ち葉を踏み締める。 ふと前方から懐かしいメロディーと共に焼きイモ屋の車がゆっくりと走ってきた。 イモを焼く匂いが鼻先を掠める。 ―まだあったんだな。 幼い頃焼きイモなんて滅多に食べられなかったのを思い出す。 突如沸く、焼きイモの映像。 ―少し焦げた皮...堪らなく力を入れて半分に折る。 あらわになる山吹色の中身。 焼きイモ独特の甘く香ばしい香りがふわり、と漂ってくるようだ。唾が口内に洪水の様に溢れ出す。 ―ああ!食べたい!! 脳内は三大欲求の1つである食欲に完全敗北した。 白旗を振る理性。 もう焼きイモ屋しか視界になかった。 スタンディングスタート まだ車は追い掛けられる! 欲望の赴くままに走りだす。 もう脳内では甘いイモを頬張る自分が居た。 唇という名の防波堤が崩壊した。 「すいませ~ん!!!」 いい大人が何をしているのだろう。 理性が反撃を開始する。 が もう遅い。 「大、2本...大きいの2本下さい!!!」 「はいよ~、ありがとね~。」 自分はまだまだ子供だな、と思う。 欲しい物を手に入れた今、羞恥心が全身を駆け巡る。またしても耳に懐かしい音色。 「と~ふ~、豆腐~」 ―またかよ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!