77人が本棚に入れています
本棚に追加
近いと言っても、距離的には、彼等が身を隠している茂みから私達の居る泉を過ぎ、そこから更に、山一つ分程離れている。
ヴァンダール「…これだけの距離があるんだ。ただの思い過ごしか、勘違いではないのか?」
疑うヴァンダール。
…無理もない、元々は防御型で、戦士時代より今まで、妖気感知に関しては人一倍長けた彼でさえも、ハーヴェイの言う二つの妖気は微塵も感じられないのだ。
………しかし、当のハーヴェイはと言えば、ヴァンダールの言う事などお構いなしに、話を続ける。
ハーヴェイ「…ふん。一人は、まだ俺達の存在に気付いてはいない様だな……………問題は、もう一人の方か………」
ヴァンダール「…」
何やら、話す度に正確さを増す彼の言い様に、ヴァンダールもその気になったのか、再び、それらの妖気を探ろうと目を閉じる。
ヴァンダール「!!」
……………すると、ハーヴェイ程明確なものではないが、ヴァンダールにも、彼女等の妖気を、微かだが感じ取る事が出来た。
それらの妖気は、彼等の潜んでいる茂みのある方角へと、徐々に徐々にと近付いて来る。
ヴァンダール「迎え撃つか?」
ハーヴェイ「…いや、その必要は無い。………寧ろ、今此処で俺達が行動を起こせば、こちらが不利になるのは目に見えている。…近くには、組織の本元だってあるしな。………それに」
ハーヴェイは言葉を切ると、そこより再び、ゆっくりと歩き出す。
ハーヴェイ「(…どうやらあちらさんも、俺達の存在に気付いているみたいだし……………これ以上の長居は無用だな)」
ヴァンダール「………何か言ったか、ハーヴェイ?」
ハーヴェイ「…うん?
………いや、何でも無い。…さて、俺達はとっととずらかるとするか。…行くぞ、ヴァンダール」
ヴァンダール「…あ、ああ…」
そうして二人の姿は、森の奥深く………漆黒の闇の内へと、静かに消えていった………
.
.
.
最初のコメントを投稿しよう!