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もう一度耳を澄ます。今度は確かに聞こえた。
──近くに人間がいる。
風向きと勘だけを頼りに、僕はその発信源を探した。
彼女は、そこにいた。
彼女は、僕が知らないような表情を浮かべている。目を細め、口の端を上げ、ただまっすぐに少し上の空を見ていて。
“音”はそこから流れ出していた。
話している?
誰と?
……いや、違う。
──歌っているんだ。
僕は一歩、二歩と、まるで吸い寄せられるかのように、彼女に歩み寄った。
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