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──何してんの?
そう声を掛けると、少女は必要以上に驚いていた。そんな大声を出しても体力を余分に消費するだけなのにと思った。
「びっくり、したぁ」
──わざわざ伝えてくれなくても君のその様子を見ていれば分かる。僕はそこまで馬鹿じゃないし、視力も聴力も悪くない。
「あー……そうよね、ごめんなさい」
──君がそこで謝る理由は分からないけれど、とりあえず質問に答えてもらえないかな。
「え? あ、これ? 土をね、耕していたの」
……耕す?
確かに言われてみると少女の指先は白く汚れていて、分かりにくいが少し大きめの石で囲ったらしき狭いスペースの砂は水分を含んでいるように見えなくもない。
しかしこの場所でその行動を起こしたからといって何になる?
誰に何を言われたでもなくただひたすら狂ったように砂を掘り起こす姿は想像するまでもなく、相当奇怪だったに違いないと断言できる。
彼女はこの広い砂漠に小さいオアシスでも作るつもりだったのだろうか。
耕すだなんて無意味なことを。
──いったい、何の為に?
その言葉に彼女は丸い目を見開いて真っ直ぐ僕を見た。その瞳が僕に、そんなことも分からないの? と言っている気がして不愉快でならない。
少しのストップモーションがあった後、彼女は囲われたスペースの端に木片を刺しながら言った。
「種を植える為に」
僕は、自分の耳を疑うしかなかった。
「私ね、花が見たいの」
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