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ほんの少しの間、時が止まったのではないかと思ったほどに静かだった。
正確には僕の思考が彼女の突拍子もない発言に追い付かなかっただけなのだけれど。
僕は他の奴等とは違って『高性能』なのに、今のこの状態を言語で説明することができない。
──馬鹿じゃないの?
精一杯発した言葉は本心からだった。
「……何が?」
具体的に言わないと分からないんだろうか、この子は。
──“ハナ”なんてもう絶滅種でしょ?
「でも種はあるもの。もしかしたら育つかもしれないじゃない」
おめでたい頭もここまで来れば病気でしかない。
僕は“ハナ”の実物を見たことはないけれど、どんなものかは理解している。水分と日光を栄養源とする“ショクブツ”に分類される生物の一種。上手く育てば鮮やかに色付くらしいけど、地面に根を張りその場を動くことはないため、必要な養分が摂取できずにそのまま滅びた。
今ではその存在を思い出す人なんていないとばかり思っていた。
──それこそ馬鹿な話だ。水も日光もないところで、どうやって育てるつもり?
「花の生命力を馬鹿にしないで。植物って私達が思うよりずっと強いのよ」
僕が馬鹿にしたのは生命力じゃなくて君の行動なんだけど、という言葉は、面倒だったので口にはしなかった。
それは、貴重な水を砂に撒いてまでやるべきことなのだろうか。
意味のあることなのだろうか。
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