プロローグ

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 と、その時、誰かの駆け足によって静寂は破られることとなる。 「あー、しまった。今日も俺の負けか」  駆け足の持ち主が乱れた息を整えながら呟き、少女がそれに答える。 「はい、残念でした。今日の食器洗い、父さんね」  正確には『今日の』ではなく『今日も』である。  少女に“父さん”と呼ばれた男は朝に弱い。毎朝少しずつ起床時間をずらす等、彼なりに努力はしているものの、少女に勝つのは至難の業だ。健康的なのは大いに結構だが、たまには父親を立ててやってもいいのではないか。もっとも、少女はそれを聞き入れるような性格ではないのだが。  諦めと呆れの混じった溜め息を漏らすと同時に、男もまたその香りに気が付いた。
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