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離婚が成立するのを待っていたかのように、全てが片付いた瞬間に母は病に侵された。判明したときには既に手の施しようもなかったらしく、手術はしないと決めた。昔から頑固な人だ、と言うのは知っている。しかし、長生きくらいして良いのではないか、と律は二年経った今でも思うときがある。
父親(少なくとも自分はそうは思っていない)が家に帰らなくなった時も、いいのよ、の一言だけだったといつだったか姉が言っていた。十三年前に他所に家庭を作った男と、律は物心ついた時に会った記憶がない。故に、父親と言う存在を知らなかった。あんな男、とよく綾は言うのだがそれを柔らかい口調で母は否定する。やめなさい、と。
母の好きな花を片手に、入院先の病院へと向かった。待合室へ着くと、看護士と何やら話し込んでいる高校生の姿を見つける。
(…あれ?)
その制服には見覚えがあったのだが、それが自分の着用しているものと同じと言うことに気づいたのに少し間が空いた。
「…だから、藤原真弓さんに面会を」
「藤原さんは、ご家族の方以外の面会は謝絶していますので」
「ほんの少しだけです!」
その高校生はどうやら自分の母親との面会を望んでいるようだが、身内ではないらしい。親戚とは殆ど疎遠状態であると聞かされていた律は、当然その人物に不信感を覚える。暫く目が離せずに見つめていると、困り果てた様子の看護士と目が合ってしまった。すると看護士は、助かったとでもいった風に律に向かって声をかけた。
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