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嵐の様な大雨と強風
星も見えない夜空をふと見上げると、何故か月が見える奇妙な天候
その丸い満月の色は赤く、紅く、朱く、緋く………………
「長凰……」
深い山の中、茂みの奥からその独りの少女を呼ぶ声が聞こえた
茶髪の長く後ろで結んだ髪と紅いハチマキ、薄汚れたコートの下に軽装な防具と一本の刀を握った少女………名を長凰(ちょうおう)
「……信月(しんげつ)、か」
長凰はゆっくりと茂みの奥から歩いてくるオールバックの髪をした男を見つめる
「………みんなは?」
実に落ち着いた様子で長凰は尋ねた
「………今の所、生き残りは俺とお前だけだ……お前の両親も含めて、皆討ち死にした」
男………信月もまた、淡々とその事を語った
「………父上も母上も、さすがに死んじまったか」
一言呟き、長凰は空を見上げた
「俺もだいぶやられたからな、生き残るのは無理だ………だがお前の両親から託されたんでな」
「なにをだ?」
「お前には生きて欲しいんだとよ」
その言葉に長凰は呆れた様な表情をした
「それは………無理な話しだろ、敵が何千何万いると思ってるんだよ」
その言葉に信月は笑いながら確になと同意し、後ろを振り返る
「噂すりゃあなんとやらだな………殺るか」
信月が刃がほとんど欠けてしまった槍を構え
「俺は長くはねぇが………………お前は死ぬなよ」
そう言い残し、茂みの奥に駆け出して行った
「生き残れ、か…………」
長凰は目を凝らし、茂みの奥を見渡した
あらゆる武器や鎧に身を包んだ大勢の兵士達によって完全に包囲されている茂み
「……無理かもしんねぇが…………やってみるか」
長凰もまた、刀を握り茂みの奥に消えた…………
茂みの奥で、紅い鮮血の華びらが散った………………
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