狂った月(奮う突き)

2/23
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 ■  魅せろ。  割れろ。  裂けろ。  咲け。  ■  屋上で。  一組の男女がいた。  少女は、誰がどう見ても童顔である。さして、彼女は気にはしていないようだが。紺色の膝上のスカートと、ワイシャツの上に灰色のカーディガンを羽織っていた。ピンク色のニーソックスが彼女のセンスを表しているように思える。  男は長い黒髪を二本に分け、三編みにしていた。かなりの長身で、綺麗に、白スーツを着こなしている。  ここが高等学園の屋上だということは、少女の方は学生。男は教師なのだろう。  禁断の愛――そんなことではない。  残念ながら、もう一つ、呼吸をしていた。  常軌を逸した生物が、一匹。  熊というか、犬というか、合成獣のような姿。茶色い毛、鋭い爪、黒く光る牙、見開かれた瞳。ゆうにワゴン車の五倍はあるのではないだろうかという大きさで、仁王立ちしている。 「退いてよっ! アタシがそいつ倒すの!」 「これしき、貴方が無駄な力を使う必要はありませんよ。それより、倒すなどと幼稚な言葉を使うのは辞めてください――殺すんです」  男は、そう少女にきつく言うと、両手を、さっと広げた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!