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「クスクス すまなかった。」
「笑い事じゃありませんよ・・・。」
「でも君って、からかうと反応が面白くって。」
サンは「もぅ・・。」と頬を膨らませながらお茶の用意をし始めた。
カチャカチャと食器の擦れる音を耳にしながら、男は再び書類に目を通した。
適当にめくっていた手が、ある一枚の書類でピタリと止まった。
<***要署名***>
一目見ただけで、最後までしっかりと目を通さなければならないのが解る。
面倒・・・否、
時間がかかりそうな書類を見つけてしまった事をしばし後悔しつつ、
チラリとサンの背中を見つめる。
「・・・・サン。」
「はい?何でしょう?」
サンは振り向きもせずに黙々とお茶の用意を続けている。
男はゆっくりと優しい声で続けた。
「あのさ、お願いがあるのだけれど。」
「僕でできることであれば何なりと。」
「ホント?じゃあね、この書類に、僕の代わりにサインを」
「駄目です。」
最後まで言わせるものかと、
サンはコトンとインクの入った瓶を机上に置いた。
「あれ?お茶は?」
「茶葉を蒸らしているところです。
その間にきちんとお読み下さい。」
「厳しいなぁ~・・・・。」
とこれまた面倒くさそうに、
男はしぶしぶと書類に視線を戻した。
サンがカップにお茶を注ぎ始め、
男が引き出しから羽ペンをとりだした時である。
「おっと・・・。」
書類が窓からの風を受け、ふわりと床へ落ちてしまった。
「大丈夫、自分で取るから。」
屈んで拾おうとするサンに男は微笑んで言うと、
スッと空(くう)へ手を伸ばした。
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