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数カ月前、奏のもとに嬉しい知らせが入った。 田崎から「そろそろ個展を開いてみてはどうだ」と言われたのだ。 奏の写真は数々の展覧会で幾度も展示されていたが、彼女自身の個展が開かれるのは初めて。 今まで数枚しか出せなかった写真が、今回は枚数限らず展示出来ると想っただけで、奏は胸を踊らせていた。そんな気持ちを抑えつつ、奏は撮影場所を捜そうとした――その時、彼女の脳裏にある景色が浮ぶ。 沖縄県・石垣島。 彼女に迷いは無かった。 奏はその日のうちに田崎に伝えた直後、澄に一ヶ月間家を開ける事を事前に告げていた。 その日数が近づいて来た為、奏は澄に再度確認を取っていた。 すると、澄の口からこんな言葉が出てきた。 「その事なんですが、自分儲けが少ないんで、…そこを何とか。」 血縁関係を利用しようとする澄の言葉を聞いた奏は、再び彼女をたしなめた。 「ダァメ、自分でやんな。」 「そんなぁ。タクシーや電車で行ったら、お金と時間両方ともかかるんですよ。可愛いいとこの、お願いと思って。」 「縋りつくな。これを機会に節約術を覚えな。そういうのを身につくと 将来の為に役立つから。」 「将来って?」
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