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「娘をどうするつもりだ?」
『喰ろうてやるのよ』
間髪入れずそう答えると、鬼はますます笑みをひろげた。それはとても意地の悪い形相である。
男は言葉を失っていた。その鋭い瞳で鬼を睨みつけ、しかし何もできないでいる。
「ただ喰われるだけなんて、受け入れられるわけないでしょう」
床下に居た少年は、いつの間にか床の上へとその身を移動させていた。
それもちょうど男の真後ろに立っている。
「美琴」
男は、思わず怒鳴りつけた。そう少年を殺すことなど、鬼には容易い事なのだ。
『何ができるというんだ?』
鬼は、せせら笑うように鼻を鳴らす。それも少年を見下しているのが明らかな態度で。
しかし少年はそれには答えず、瞳を閉じた。
そしてゆっくりと足を動かし、北斗七星の形を描いていく。
その後に左手で雷の印を結び、右手で剣訣の印を結び、そしてそのまま何かしら言葉を唱え、胸元より何か札のような物を取り出す。
それもその過程は数分もかからず、すばやい動作であった。
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