序章

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 そして水干服を着て床下に隠れていた少年、これが本来の姿なのであろう。 「でも、鬼は倒せたのだし…」  少女は、そっと覗くように男を見上げた。しかし怒りの顔を見せているのを見ると、すぐに視線を逸らす。 「その事もだ。あれは、こちら側に非がある。鬼は、正当な権利を主張しただけだ」  男は、憎々しげに顔をしかめる。しかも今思い出しても腹立たしいといった様子で。 「では、私は食われていればよかったのですか?」  少女は、聞き捨てならないと言ったふうに食って掛かった。それも思わず立ち上がろうとしてしまう程、勢い良く。  それに対し男は、首を横に振る。思わずため息をついていた。 「お前のやった事は、正当防衛になるだろう。お前自身は、あんな条件を突き付けられる謂れなどないのだから」  男の顔は、どこか悲しげなものである。それは腹立たしげに振舞っているにも関わらず。 「…父様?」  少女は、訝しげに男の顔を覗いた。恐らく男の心情を量りかねているのだろう。
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