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その男は指を組み、何かしら言葉を唱えている。それもひどく真剣な表情で、汗が滲んでいた。
「あの者で大丈夫であろうか。やはり僧都に頼んだ方が良かったのではないか?」
放出の外で囲むように見守る男達の一人、髭を丁寧に整えた気の弱そうな面持ちをした中年の男が、訝しげな表情で話している。
しかも口元を扇で隠し、話しているのを見えないようにして。
「何をおっしゃいます。彼の実力は、噂以上のものですぞ」
年の若そうな男が言葉を放つ。その男は、とても美しい顔立ちで【美丈夫】という言葉が似合っている感じであった。
「しかし本当に鬼が出ますかな? そもそも鬼の仕業なのか?」
「ここの女中が死んだその場を見た者が、そう言っているのだ。しかも複数の人間が目撃しているからな。見間違いで済ますこともできまい?」
「まぁ、そうかもしれぬが……。しかし、時間のかかる事よ」
口髭の男は、まるで苦虫を噛み潰したような表情を見せている。
おそらく目の前の男をうさんくさいものに感じているのであろう。
そしてふと言葉を唱えている男に視線を戻した瞬間、板を叩く音が響いた。
口髭の男は、思わずびくっと肩を揺らす。そしてキョロキョロと周りを見回した。それは周りの雰囲気のためか、おどおどとしているような様子である。
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