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美琴は嬉しそうに微笑み、人の壁に向かって走り出す。
そこでは、若い娘、年老いた男、幼い子供、いろいろな人達が、壁を作っていた。
そして壁の中心には、一人の青年が座っている。
その青年の短い髪は金色、そして優しげな忘れな草色の瞳。しかも雪のように白い肌をしており、繊細な顔立ちで少女と見紛う程可愛らしい。
しかしリュートと呼ばれる弦楽器を爪弾く仕草は、男らしいものであった。しかも、それだけで青年が男であるとわかるくらいに。
そしてリュートから流れるように紡がれる音色は、美しい旋律を奏でている。
が、美琴はその音に違和感を覚えた。それは何か変な印象。そう感情のない音に聞こえた。
しかし他の者達は、聞き惚れているように見える。それも何も疑問に思うことなく。
美琴が周りの人間を観察していると、ふと流れる音が消えた。
そして人々の間から次々と拍手が贈られる。しかも手の叩かれている合間に、金属の音が響いた。
それは青年の前に置かれている箱の中に、コインが投げ込まれていく音。
青年は笑顔を見せ、人々に答えていた。
しばらくして人々は、それぞれの向かう場所へと足を進めて行く。
それもまるで潮が引いたように居なくなっていった。
そしていつの間にか、美琴一人がその場に取り残される。
ふと青年が美琴の方を振り向いた。そしてぱっと見たその顔は、やはり可愛らしい少女のものである。
その青年は、体の線が隠れるような少し大きめの、トルコ風な衣装を身につけていた。
しかも頭には、ターバンが巻かれている。
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