序章

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「今、何か音がしなかったか?」 「床の方から聞こえたような気がするが……」  若い男は、床をしげしげと見つめていた。まるで見つめ続ければ、そこから何か現れるとでもいうように。      ***** 「姫様、お止めください。見つかってしまいます」  ひどい暗闇の中、前方にいる人影に向かい、男は言葉を放つ。  それはとても小さくか細い声で、しかも男性はまるで頭上から何か落ちてくるのではないかというように頭を抱えていた。  狩衣と呼ばれる服を身につけたその男は二十代前半といった感じで、少し気の弱そうな優しげな顔をしている。  そして闇にその色は暗く見えるも、髪も瞳も人より明るく見えた。 「何……」  姫と呼ばれた人物は、後ろを振り向き言葉を話そうとした瞬間、男に手で口を塞がれてしまった。  ぐぐっといった言葉にならない声が辺りに響く。 「姫様、声が大きすぎます。こんな所を見つかったら殺されてしまうんですよ」  男は慌てたように辺りを見回しながら話す。それもひどく怯えている様子で。
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