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「そんなにびくびくしなくてもいいじゃない。別に怪しいわけじゃないし」
男の手が離れると、姫と呼ばれた人物は半ばあきれているように小さく呟いた。
長い黒髪を一つに結い上げた、凛とした姿の少年……に見える。
牛飼い童と呼ばれる者がよく着用する水干服を着ているためかもしれないが。
「何言ってるんですか。こんな所にいる人間が怪しくないわけないじゃないですか」
男は思わず勢い良く話す。が、小さな声で。
その勢いのためか姫と呼ばれる人物は、たじろいだ様子を見せた。しかも困った表情を見せている。
「…悪かったわ。でも帰るわけにはいかないわ。そんなの来た意味がなくなっちゃうもの」
「もしここで見つかったら、父君にも害が及ぶのですよ」
「それは、わかってるつもりよ。だからこんな格好で来てるんじゃない。まさか姫がこんな格好で、こんな場所にいるとは、誰も思わないでしょう?」
男はため息をつく。思わず首を振っていた。その顔には、あきれているような表情が浮かんでいる。
「そんな事、服を脱がされたらおしまいじゃないですか」
姫と呼ばれる人物は、ぎょっとしたように男を見つめた。
驚きの表情が、顔いっぱいに広がっている。
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