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目を瞑り、何かしら言葉を唱えていた男が、ふいに顔を上げた。
そして天井の方に視線を向ける。その視線の先には、赤にも緑にも見える不思議な色をした物体が存在していた。
物体は徐々にその大きさを増し、人の倍はあるであろう大きさで成長した。
そして少しずつ浮かび上がらせるその姿は、髪や髭が無秩序に伸び、腕や足の毛もぼさぼさの大男であった。
しかも牙が二本口からはみ出し、頭に小さな角が見える。
そうこの国の言葉で、【鬼】と呼ばれるものである。
『私に呼びかけたのは、お前だな。私に何用か?』
男はひどく緊張した面持ちで、目の前の鬼を見つめていた。
額に浮かぶ汗がすっと流れ落ちる。しかもひどく口の中が乾いており、男は唾を飲んだ。
「この屋敷の者たちを、何故喰らうのですか?」
男は、挑むような眼差しを鬼に向けている。それも隙を見せないようにしているように。
『何も聞いていないのか? 苦労な事だな?』
鬼は男を見下したような眼差しを向け、ふと笑みをもらした。
その言葉に男は眉間にしわを寄せ、怪訝そうな顔を見せる。
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