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そして鬼は、そうつまらなそうに言葉を放った。しかも興味なさそうに、男から視線を逸らす。
『人とは、愚かしい者だな。……もし、私にこのまま帰ってほしいと思うのなら、娘をもらおうか』
そして鬼はふと笑みをもらした。とても楽しげな、しかし意地の悪そうな笑みを。
『お前の足元におる。お前に似た力を持つ娘だ』
男はぎょっとしたような表情を顔に浮かべると、足元へ視線を移した。
そして右手の指を組み何かしら言葉を唱えると、右手を床へ下ろす。
「カッ」と気合を込めた声を上げた瞬間、足元の床板が音を上げて弾け飛んだ。
そして暗い空間に人影を見出す。それは水干服を身につけた少年、そして狩衣を着た青年であった。
「……美琴。どうして、ここに?」
男は驚愕を露にしている。そして振り出すようにか細い声で呟いていた。
『どうするのだ? その娘を渡すか? それとも屋敷の女を全て食ろうてやろうか?』
男の表情を見て、鬼は面白そうな笑みを顔に広げている。それもまるでからかっているかのように。
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