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「武藤君」
「なに?」
「無口だね」
「あ、うん、ごめん」
「何考えてたの?」
彼女は、足を止めておれのほうを振り返る。
乱れた髪をその細い指で耳にかけ、見えた顔は、屈託なく笑っている。
すねているのは声だけで、彼女はこれっぽっちも怒ってなどいないのだ。
彼女は、そういう人だった。
「ごめん、ぼーっとしてた」
「武藤君がぼーっとしてるときって、顔怖いんだ」
少しだけ声を立てて笑い、彼女は髪を右手で整える。
伏せたまつげは長くて、うっすらとした化粧がそれを際立てていた。
彼女は、かわいい人だった。
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