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守ってあげたいと、思ったときもあった。
それは、まだこの恋が幸せな恋だったころ。
だけれど、今ならわかる。
それは何にもかえがたく失礼な言葉だ。
何も出来やしない学生のおれが、あの人の虚勢を笑えるもんか。
何も出来やしないんだ。
あの人が、お金で誰とセックスしようと、あの人が、吐くまで酒を飲んでも、あの人が、声を上げて泣いていても、
何一つ、してやれないんだ。
それこそ、あの人は壁一つ向こうにいて、いつでも手の届くところにいるのに。
おれは、あの人があのヒールが高くて派手な靴を履いて、仕事へ行く、おれから遠ざかっていく、足音を聞くことしか出来ない。
もう、そんな毎日は嫌なんだ。
慣れを知らない自分も、もう。
苦しくて、痛くて、泣きたくて、悔しくて、もう、そんなもので腹のふくれた毎日なんて。
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