1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「…そうなんだね、知らなかった!あ、そだ、武藤君」
彼女の笑い混じりの声に、おれは笑って返事をする。
笑え、笑え、おれ。
あの人を、振り切るみたいに。
そしてまた、誰かを好きに、なれ。
「あのね、今度からね…」
彼女が、少しうつむくようにして何かを言いよどんだ。
それにおれはまた口の端を持ち上げて、ヘラリと笑って見せた。
笑え、わらえ。
「“しゅうちゃん”って、呼んでいい?」
すみれさん。
すみれさん、と、声に出したくなった。
すみれさん、と、叫びたく、なった。
「あのね、ほら、みんな秋って呼んでるでしょ?だからちょっとひねっ」
「ごめん」
「え?」
「ごめん、それは」
「武藤君?」
「それは、だめ、なんだ」
「どうしたの?」
「ごめん、ごめん、な」
「武藤君」
「ごめ、ん」
「…泣いてるの…?」
最初のコメントを投稿しよう!