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1-2.『涙』
冷たく閉ざされた心に触れる『感情』。溢れて零れるのは涙。散り急ぐ花弁が流すのも、また。
さわさわ、さわさわ…
今日もまた、長い歳月を生きてきた大樹は涼やかに揺れている。
豊かに茂った若葉を両手いっぱいに抱えて、やわらかな日差しに輝かせながら。
さわさわ、さわさわ。
優しく吹く微風。
静かに流れる時間。
何の解決にもならない無駄な時間。それを欺瞞で塗り固めていく無駄な授業。
疑いもせず信じることしか知らない天使達。全てを仕組み、その上で世界を統べる天上王。
みんな、皆…大嫌い。
言葉に出さない思いをぶつけるように前だけを見据え、金の髪の少女は溜息を吐いた。
-バカだよ、私も。
溜息が苦笑に変わった、その時。
「…誰?」
人の気配を間近に感じ、口を開いた。
その口調はかなり険しいものであったのだが、問われた方は全く意に介する様子もなく、穏やかな声で答えた。
「ここは本当に気持ちの好い所ですね」
その上、その言葉は彼女の発した問いとは全く関連性の見当たらないものであった。
-冗談じゃないわ。
「待ってください」
無言のまま去ろうとする少女を、穏やかな声は引き止める。
「…大丈夫ですよ。貴方を傷付けたりはしません。ただ…少し、話がしたいだけです」
「…手、放して」
あからさまに迷惑そうに彼女は言い、「あぁ、すみません」と微笑しながら彼は思わず掴んでいた細い腕を放した。
「僕はラファエル。ここで学ぶ学生の一人で、決して怪しい者ではありません」
だから警戒する必要はない…と言いたかったのだが、その名を聞いた瞬間、少女の顔色が変わった。そしてそれは、明らかに『敵意』を表していた。
「…準一級天使…」
呟いた声音にさえも嫌悪の色が滲み出る程に。
「…皇太子殿下が何故このような所に?」
「『皇太子』…ですか。ラフィーで構いません」
皮肉たっぷりの口調で放たれた『皇太子』という言葉に一瞬哀しげに表情を曇らせ、「権威や階級など何の価値もありませんから」とラファエルは微笑む。
「…優越感を感じることは出来るでしょう」
「そして『自分は特別』だと思える…ですか?」
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