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1-3.『嘘』
己に課した枷。生きていく為の茨。自身で選んだと信じている、脆弱な定義。
さく、さく、さく。
どれ位そうして居たのだろう。
黄金色の髪も、白く細い腕も、闇色のドレスも、もはや薄紅い花弁に覆い隠されてしまおうとしている。
さく、さく、さく。
近付いてくる足音に気が付きながら、彼女は瞳を開こうとはしなかった。
はらはら、はらはら。
まるで泣いているように、花弁は散っていく。
「ジブリール」
足音の主は穏やかな声で微笑んだ。
「何を泣いているのです、ジブリール」
「泣いてなんかいないわ!…だって」
体を横たえたまま拗ねたように声を荒げる少女を、老天使は黙って見つめている。
「…何もないもの。悲しくも嬉しくも切なくも淋しくも。何もないのに泣く理由なんてないじゃない」
「ジブリール」
「泣く訳ないじゃない、この私が…っ!」
「聞きなさい、ジブリール」
少女の隣に腰を下ろし、老天使は天を仰いだ。
「貴方はこの世界が嫌いですか?」
「…嫌いよっ!」
「この世界に生きる天使(もの)達は?」
「大嫌い!」
「…本当に?」
「嘘吐いて何になるって言うのよ!?」
苛立たしさをぶつけるように少女は言い、それに気分を害することもなくやわらかに老天使は言葉を紡ぎ続ける。
「全て?」
「そうよ!」
「この世界…風も、光も…この場所も?」
ジブリールはぐっと唇を噛む。
「貴方を愛した天使(ひと)も、守った天使も…この私も、嫌いですか?」
-僕も、嫌いですか?
淋しげな笑顔。優しい声。
-いいえ、違う。そうじゃないの。ただ…でも、私は…
「…インマヌエル?」
「…ううん」
はらはら、はらはら。
花弁が、降り積もる。
「…違う…」
溢れる涙を隠すように、左腕で両の目頭を覆い、少女は。
「…違うの…」
震える声を押し殺しながら、囁いた。
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