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身元不明の死体が発見されたのは、冬の足音が聞こえそうな11月7日の夜のことだった。
薄暗い路地裏に、ゴミのように捨てられていたのをホームレスが発見したのだ。
死体が発見されるのは珍しいことではない。
ここは『希望の欠片』と呼ばれる貧民街。
殺人や強盗といった犯罪が日常的に起こる場所なのだから。
珍しいのはむしろ警察に通報があったことの方で、数台の警察車両が、路地の入り口にひしめくように停まっていた。
路地から一人の若い警官が飛び出して来た。
青い顔で路地の端に駆け寄り、胃の内容物を吐き出す。
そんな警官に近付く人影があった。二人組の男だ。
年齢は若く、20代前半といったところだろう。
一人が気遣うように背中を擦って、声をかける。
「大丈夫かい、お兄さん」
若い警官は青い顔のまま頷いた。礼を言おうにも言葉を発することができない。何か言えば、再び胃の中身が飛び出して来るだろう。
「俺達に任せて休んでなよ」
そう言って、路地へと消えた。彼らが消えたのを確認して、警官の同僚が仲間の側に近付く。
「おい、大丈夫か? 何もされなかったか?」
「…あぁ。今のは誰だ? 軍の関係者じゃないようだが…」
ハンカチで口を拭いながら同僚に尋ねた。同僚は、嫌悪感を顔中に滲ませ答える。
「ゼロと呼ばれる連中だよ。何かと胡散臭い連中だ」
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