0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの・・・東谷と申しますが」
「東谷さん? ・・あ」
間のぬけた声が、問題の溶けた瞬間、緊張がみなぎる。
「隆弘です」
受話器を口元に近付けたのか、途端に声量が増した。
「隆弘か・・」
「・・・はい」
「・・久しぶりだな」
「突然なんですけど、お会いしたいんです」
父は、しばし沈黙のあと「分かった」と電話を切った。
元彼女と会うときよりも、出世した友達と会うよりも、父親に会うとなったら見栄をはろうとしている自分がいた。
立派になってからでないと会えないと思っていた。
バカだ。
どうあがいても、こいつを捨ててもったいないことしたなとは思ってもらえないのに。
父は、母と離婚後に一回り離れた女性と再婚し新しい家庭がある。
チビ3人といる時間を増やすためにタクシーの運転手をしているらしい。
これらの情報は、いつも2つ上の兄によってもたらされた。
最初のコメントを投稿しよう!