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兄は俺と違って、好きな時に父と会っているようだった。
俺は女手一つで育ててくれる母や家事を引き受け、老体にムチうって働く祖母のことを思うと会いたいと気持ちより、しなくていい苦労をする原因を作った父が憎らしかった。
母は、兄に将来を期待し、俺には別の役割を押しつけた。
夫の役割だ。
妻の愚痴を聞き、慰めたり、励ましたり。
たまには「頑張っているな」と褒めたり、ねぎらったり。
めったに弱音をはかない母は祖母にも弱みをみせない。
そのくせ、俺のまえではハラハラ涙を流したり、思い通りにならない思いをぶちまける。
大抵は怒りだった。
顔が父親に似ていた俺に憎しみをぶつけていたのだと、今では思う。
結局、ス?ツを着てみたり、新しく洋服を買ったりもしたけれど、いつもどおりジャ?ジを着て足元はサンダルだ。
普段通りにいつもの自分で。
公園に中年男性が何人かいた。
お互い特徴を話してもいないし、昔の面影などおぼてもいない。
あの父親が俺の顔をおぼえているとも思えなかった。
携帯の電話番号も知らなかった。
だって、今日が初めてで最後になるだろうと思っていたから。
父親が俺の病気の原因なのだとしたら、今日、会って今までの恨みやら心の中を全部ぶちまけてしまおう。
そして直る。
そしたらさよならだ。
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