第一章 黒衣の男

6/24
前へ
/559ページ
次へ
 昼休み。  香苗と水樹が持参した弁当を食べ終った頃、西野彰は職員室から戻ってきた。 「か…かなえ…チャン」  戻ってくるなり彰は香苗に寄っていく。水樹が露骨に嫌な顔をする。 「どうしたの?彰」 「ぁ…ぁの…な、何か書くもの、貸してほしいん…だ…」 「いいけど、何で?」 「し、進路…票、放課後までに書けって…」  彰は手に持っていた進路調査票を香苗に見せる。 「自分のは?忘れたの?」 「ど、どこかで落とした…カナ…?」 「まったく…」  香苗は溜め息を吐き、自分のペンケースからピンクのシャープペンを取り出し彰に差し出す。 「これ、今日一日貸してあげる」 「へ…?で、でもぉ…」 「午後の授業はどうするの?貸してあげるから今日の授業が終わったら返してね」 「ぁ…ぁぃ…ごめんね…」  彰は香苗に心底申し訳なさそうに何回も頭を下げ、自分の席へと戻った。  その姿を見て香苗は大きな溜め息を吐く。 「かなさぁ~」 「え?」 「何であんなヤツに親切してあげるワケぇ?ほっときゃイイじゃん」 「まぁ…そんな深い意味はないけど…」 「うつるよぉ?ネクラ菌が」 「ネクラ菌って…」 「ホント、かなは人良すぎだって!あんなゴミ男にさ~」  水樹は心底呆れた口調で言う。彰は水樹に対して特に何かしたことはないのだが。
/559ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加