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「ぁ……」
香苗がその声のした方向を見ると、彰が椅子に座ったまま固まっている。それと同時にクラスメイト達のクスクス笑いが教室全体に広がる。
この笑い声が起きる時は決まっている。
「西野イジリ」と呼ばれている、今やこのクラスの恒例イベントの始まりの合図であり、毎日行われている彰へのイジメだ。
もはや、彰へのイジメはこのクラスの娯楽となっていた。
「アキラくぅ~ん!何をボーッとしてるのかね~?」
西野イジリを率先して行っている男子生徒、金本祐司(かねもとゆうじ)が彰の肩に手を回す。
「か…かねもと…クン」
「どぅしたぁ~?親友!あぁー!!」
わざとらしく驚いた演技をする金本。
「何だよぉ~!?このカバン~」
金本が彰のカバンの口をクラスメイト達に向けた。
彰のカバンの中は、パンやらご飯が詰め込まれ、牛乳も入れたのかグチャグチャになって嘔吐物のような有り様になっていた。
「アキラくん、カバンというのは教科書やノートを入れるものだよぅ?食べ物は弁当箱に入れなくちゃ~、知らなかったのかぁい?」
「ぅ…ぅん…と…」
無論、金本の仕業であることは香苗も水樹も、そしてクラス全員が知っている。しかし、誰もその事について金本を責めたりはしない。
下手に口出しして自分が金本のイジメの標的になるのは嫌であるし、何より彰のために自分がそんなリスクを背負うことは馬鹿らしいと大多数の生徒が思っているからだ。
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