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「まぁまぁ、そんな落ち込むなよ~。オレがカバンの使い方ってモンをじ~~っくり教えてやっから!」
そう言って金本は数人の取り巻きの男子生徒と彰を連れて教室を出ていった。
もうあと一時間程したら顔と制服がボロ雑巾のようになり果てた彰が教室に戻ってくるだろう。
いつもの教室の、いつもの光景だ。
「ってかアキラちゃん、学費よりメガネ代の方が高くついてんじゃない?マジ学校に何しに来てんだし」
そう言って大笑いする水樹。
そんな水樹に愛想笑いで返す香苗だが、正直なところ全くいい気分はしなかった。
香苗はこの西野イジリに限らず、他人のイジメられているところを見て喜ぶ趣味はない。かと言って自分から率先してイジメをなくそうと行動するタイプではなかった。
自分一人が何かしても何も変わらない、と香苗自身理解しているからだ。
こんな自分が法律に関わる仕事を夢見ることに疑問を感じることもあったが、それとこのイジメとは別問題であると割り切っていた。
正義は今貫くことではない。それは弁護士になってからすればいい。
よく学園ドラマにあるような、自分がイジメの標的になるのを覚悟で正義を振りかざす役なんて、役者でも弁護士でもない自分がやる必要はない。
彰がイジメられている光景を見る度に、香苗はそう自分の心に言い聞かせていた。
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