第一章 黒衣の男

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 警視庁。  小林紗恵は一週間前の内藤毅外務大臣殺害事件の資料作成に追われていた。  内藤外務大臣の殺害現場からKの使用した銃のものと思われる弾丸が落ちていた。  表面に黒い蝶の彫られた金色の弾丸。  鑑識に調べてもらったが、現在市場に出回っているどの銃のものでもないとの結果であった。  更に、弾丸に刻まれた旋条痕のパターンも警察の持つデータベースに登録されているいずれにも該当せず、Kの使用する銃が弾丸共に未知の物であることを裏付けていた。  Kは闇ルートで銃を手に入れたと考えられるが、銃を流している組織や銃の流通経路などは日本に限らず世界中に腐るほど存在し、更にKの銃が警察のデータベースにもない未知の銃である以上、それらを全て洗っていくのは時間と労力の面から不可能に近い。  ただ確実に言えることはKには何か大きな組織がバックに存在し、援助されている。単独でここまではできない。  そしてK自身も警察に尻尾を掴ませない知能犯。 「くっ…」  紗恵に今わかるのはこの程度の事。そして誰にでもわかる事。  そこから先は、Kが現場に確たる手掛りを残さねば推測することもできない。しかし、そんなことは万に一つもないであろう。  歯がゆさが紗恵の心を支配する。紗恵の頭の中のKがほくそ笑む。 「消えろ…異常者め…っ!」  紗恵はそれを振り払うかのように仕事に没頭していた。
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