第一章 黒衣の男

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 東京都文京区。  私立文京学園第二高等学校、通称・文二。  この文二に通う三嶋香苗(みしまかなえ)高校三年生は朝のホームルームに提出する進路希望調査票を眺めていた。  香苗は大学進学を希望しており、第一志望大学は法学の名門と言われている国立首都大学法学部であった。  香苗は将来弁護士になるのが夢であった。  法は、必ずしも正しい事に行使されるとは限らない。冤罪事件がその良い例である。  痴漢冤罪、殺人冤罪。身に覚えのない罪をある日突然振り掛けられ、普通ならば法によって守られる立場にあるはずの人間が裁きを下され、それによって仕事や家族を失う。  法とは犯罪を抑止する堰であり、その堰から溢れ出た悪人達に法の裁きを下すことにより、罪なき人々を守るためにあるべき。冤罪を裁くために法を行使するなど論外。  そんな理不尽たる冤罪を掛けられた者達を守りたい。香苗はそのために弁護士を目指していた。
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