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ある日喋る猫が現れた。
真っ黒な体躯と、ぴん、と張った尻尾がいかにもスマートで、聡明そうだな、という印象を受けた。
猫は言った。
『何かひとつ願いを叶えて差し上げましょう』
私は言った。
『世界の終わりが見てみたい』
気付けば私は気球に乗っていた。いつまでもガス欠にならない気球で、どこまでも。猫は私の肩の上で、あぶなくバランスをとっていた。
どこかも知れない海。真っ青に、夕日の赤が沈んで、地平線に溶けていく。
『これが、世界の終わりですよ』
猫は明瞭な声で言った。それから気球はさらにゆらゆらと漂った。暫くすると、地平線から、溶けていた太陽が浮かび上がる。血のような色をお供にして。猫はまた言う。
『これが世界の始まりです。終わりが来ても、始まりがまたやってくるのです』
猫の言葉に、随分ロマンチストね、とぼんやり呟くと、
『それはそうでしょう。猫が喋るので十分、ロマンチックなんですから』
そう囁いて、世界の始まりに消えていった。
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雰囲気作品。
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